第16話
「鉄火」
〈合議の間〉には錚々(そうそう)たる面子が集まっている。〈円卓(サーカス)〉の四人。警視庁(ヤード)の長官と副長官。陸・海軍の大将とその側近。軍情報部トップに〈国際メイド連盟〉の代理人。チェルトナムからは〈監視委員会〉のトップまで参加している。〈メイド協会〉のアヴリルとルルも、そうした集まりに同席している次第だった。
「——報告を」
〈円卓(サーカス)〉の構成員がひとり、片眼鏡(モノクル)の老人〈ハート〉が言うと、室内に重苦しい沈黙が流れた。警視庁(ヤード)と軍情報部の目配せが飛び交い、無言の腹の探り合いがはじまるやいなや、アヴリルは深々とした溜息をつき、口火を切った。
「本日、侯爵は聖バーソロミュー病院を退院なされました。襲撃者二名の行方はアビゲイル・アークライトの尋問と並行し、警視庁(ヤード)、軍と連携しつつ継続中です」
「逃げた賊を何としても捕まえろ。何としてもだ」
〈円卓(サーカス)〉構成員がひとり、肥え太った老人である〈ダイヤ〉が言う。
「アークライトの取り調べはどうなっている?」
「申し訳ございません、いまのところ目立った成果は……」
警視庁(ヤード)の長官が冷や汗を搔きながら言った。いかにも「胃が痛い」といった風情だった。〈フォルセティ〉が捕らえた〈エース〉ことアビゲイル・アークライトの身柄は警視庁(ヤード)の所管へ移されていたが、取り調べで有益な情報を得られているとは言いがたい状況だ。
「身柄をロンドン塔へ移せ。レディントン侯……〈鍵師(キー・メイカー)〉に仕事をさせろ。どんな手を使っても大ドイツの思惑を明らかにせにゃならん」
「御意に」
アヴリルが〈ダイヤ〉へ応えると、警視庁(ヤード)の長官はついに胃腸のあたりをさすり始めた。警察の仕事ぶりに見切りをつけられたと思ったのだろう。
とはいえ、アビゲイル・アークライトの尋問については、もとより警察程度に務まる仕事ではありえなかった。アビゲイルは訓練された元諜報員だ。彼女はファルテシア王国軍情報部付きの元〈コミュニア〉——早い話が、耐尋問技術においてはプロ中のプロである。敵国領内へ潜っての任務さえこなす情報部付きの〈コミュニア〉は、敵軍の捕虜になった際の訓練を徹底して受けている。かくいうアヴリル自身もそうだった。どれだけ締め上げたとしても、アビゲイルは自身の名前以外、いかなる情報さえも吐くことはないだろう。
「ところでエルウッド卿」
列席していた海軍大将が、おもむろに軍情報部長の名を呼んだ。
「アークライトは元々あなたがたの隊にいたメイドのはずだ。確か……フランスと大ドイツの国境地帯で破壊工作を担当していた特務任務大隊の所属だとか」
「それが何か?」
「公的記録を見る限り、アークライトは大陸派兵中に〈戦死〉となっておりますな。やつはなぜ生きておるのです」
「そんなことは我々にもわからん。墓から蘇ったとしか思えんほどだ」
「戦死を偽装し、大ドイツ側へ寝返ったのではないですかな? 大陸の情報部の連中には、かの国と通ずる者もいるらしいじゃないか」
テーブルを拳で叩く音が反響する。怒りのあまり、エルウッド軍情報部長は茹で上がったタコのような面持ちになっていた。
「根も葉もない噂だ! マクレガン海軍大将! 責任転嫁も甚だしい! もとはといえば、大ドイツの工作員をみすみす密入国させた貴公たち海軍にこそ、本件の責任があるのではないかね!」
「何を言い出すかと思えば! 口を慎みたまえエルウッド卿!」
今度はマクレガン提督の顔が茹でダコになる番だった。
「海峡の沿岸警備隊では汚職が横行しているというではないか! 賄賂さえ握らせれば武器や麻薬の密輸入のみならず、密航者の渡航でさえ見逃すと聞く!」
「それこそ根も葉もない噂だ! 我が軍を愚弄するなど聞き捨てならん! その発言、正式に抗議をさせて貰うから覚悟しておけ!」
「やめんか!」
陸軍大将の老将軍が、パイプをくゆらせながら争う二人を制止した。軍帽と眼帯を身に着けた、巌(いわお)のような雰囲気を醸し出す巨漢である。
「〈円卓(サーカス)〉の御前だ——責任の押し付け合いなら余所(よそ)でやってくんな」
その迫力に、エルウッド軍情報部長とマクレガン提督が押し黙る。
「〈ファイブ〉〈シックス〉と名乗った賊どもの行方は、兵たちを最大限に動員し、追跡と捜索に当たらせている——が、まぁ難しいだろうな。やつら相当に高度な訓練を受けている。何せそちらのルル・ラ・シャルロット嬢とフロスト姉妹でさえ、仕留め切れんかったほどの手合いだからな」
「面目次第もございません。バロウズ陸軍大将」
アヴリルは陸軍の老将軍へ告げる。ルルは無言のままだった。
「ともあれ——当座の問題は、です」
〈円卓(サーカス)〉構成員がひとり、老女の〈クローバー〉が言った。
「大ドイツの軍縮要求に真っ向から異を唱えるウェインライト候が、当の大ドイツによって暗殺の標的とされた今回の事件。それが市民に知れ渡ってしまったことにあります」
〈クローバー〉は卓上に置いた新聞の見出しを掲げてみせる。今朝発行された最新の朝刊である。そこには『卑劣な大ドイツの策謀か? 軍縮反対派議員、白昼堂々襲われる』という印字が大々的に躍っている。センセーショナルを掻き立てるような書きっぷりだ。
「侯爵を襲撃した賊たちは、自ら大ドイツの手先だと名乗りました。演説の場には大勢の聴衆がいたようですが、そこに居合わせた記者がこうした記事を書くのも、時間の問題であったといえるでしょう。大ドイツは力ずくで軍縮反対議員の筆頭ともいえるを侯爵を消そうと躍起になった——そんな印象が市民の間で根付いたのです」
〈クローバー〉に続き、〈円卓(サーカス)〉構成員がひとり、口髭を蓄えた老人の〈スペード〉が言葉を継ぐ。
「これで勢いづくのは侯爵以下、軍縮反対派の議員たちだ。ここぞとばかりに反大ドイツキャンペーンを張るだろうな。その旗を振るのは、襲撃された当人たるウェインライト侯爵に違いない。厄介なことだ」
「議会は大荒れとなるでしょう。我が国の講和路線は、ここに来て頓挫(とんざ)の危機を迎えることになるのです。その先にあるのは、大ドイツとの戦争へ突き進む未来に他なりません」
厳かに告げる〈クローバー〉の言葉に、軍トップたちの表情が一様にこわばる。沈黙が場を支配する中、アヴリルは問うた。
「大ドイツ政府は、この件について何と」
「無論、本件への関与を否定する声明を出している。やつらは濡れ衣だと喚いているが、実際はどうだか……」
アヴリルの問いに、情報部トップのエルウッド卿が応える——すると、
「どうだか……じゃあないでしょうが!」
〈合議の間〉に、扉が勢いよく開かれる音が轟いた。列席者全員が音のした方へ視線を向けると、そこには深紅の和服を着た女と、そして彼女の従者だろうか、執事服を着た女が戸口に立っている様が視認できた。
「遅いぞ、モミジ」
女の名を呼びながら、〈スペード〉は自らのパイプ煙草に火をともす。
「ごめんね、お待たせお待たせ~♪ 主役は遅れてやってくる。なーんてね」
国の要職を務める者たちの前で、モミジと呼ばれた和服の女はこともなげに言ってみせた。〈王立メイド協会〉の名誉顧問——会長職の更に上位の役職を務める、事実上の〈王立メイド協会〉トップの登場であった。
「あのさ、遅れてきて言うのもなんだケド、ひとつ発言いいかしら?」
モミジはドカッと円卓の空席へ腰を下ろすやいなや、列席者を見回して言った。何とも不遜な態度だった。
「この件何かおかしくない? 単純なことだけれど、ここにいる全員が気づいてない。わかるかしら? 正解者にはご褒美をあげちゃう」
そこでモミジはわずかな間を置き、従者が淹れた抹茶入りのティーカップを持ち上げる。自らが投げかけた問いの回答者がいないことを確認した上での所作であった。
「大ドイツからしたら、侯爵の暗殺を命じたのが大ドイツ政府だと知られるなんて、デメリットしかないわよね? 私が向こうの人間だったら、侯爵を病死に見せかけて暗殺する——あるいは、暴漢に襲われたかのように見せかけて殺す。それがいちばん手っ取り早い。この件、ファルテシア側に禍根(かこん)を残しちゃいけないのよ」
「……何が言いたいのです」
〈クローバー〉が聞き返すと、モミジは整った顔立ちを笑みの形へ変えて言った。
「講和条約締結の見返りとして、ファルテシア王国政府に軍縮要求を呑ませるのが大ドイツの目的なはずでしょ? 敵国の軍事力を削ぐという意図のもとね。だったら、『これが〈ベルリン〉からのメッセージだ』と工作員に言わせた上で侯爵を襲わせるなんて、辻褄が合わない。そんなことをしたらファルテシア王国で反大ドイツの機運が高まって、講和条約の締結自体が難しくなる。言い換えれば、敵国に軍縮要求を呑ませる大ドイツの目的とは相容れない。はっきり言って矛盾する行いだわ」
そして更に——とモミジの発言はなおも続く。
「この件、もうひとつ引っ掛かることがあるのよ。侯爵の演説会場で警戒にあたっていた仮ライセンス持ちの学科生……彼女たちは、侯爵を襲撃した大ドイツの工作員と交戦した。そして彼女たちの報告書には、敵工作員の発言としてこんな言葉が綴られていた。『ルル・ラ・シャルロットはどうした? 怖じ気づいて逃げ出したか?』と」
〈合議の間〉がにわかにざわつきはじめる。その反応に満足したのか、モミジは「よろしい」とばかりに満面の笑みを浮かべてみせた。
「ここにいる皆が知っているはず。ルルが侯爵の警護要員についていたのは、そもそも極秘事項であったことを。実際、ルルは雨具のフードで顔を隠して侯爵の警護へ当たっていた……じゃあ何で、ルル・ラ・シャルロットがその場にいたことを大ドイツの工作員は知っていたの?」
「まさか……」
警視庁(ヤード)の長官が震えたような声音を発している。
「情報の保秘は徹底されていたはずだ! そんなはずがない……そんな……!」
「『そんなはずがある』のよ。今回の襲撃事件はルルが警護要員についていたことを知り得る者が、間違いなく何らかのかたちで介在している。そしてルルが当日あの場にいたことを知りえる者は……この〈合議の間〉にいる「誰か」に他ならない。以上の情報をもって、私はこんな推理をしているわ」
世論の誘導を目的として、ここにいる誰かが大ドイツ工作員による侯爵の暗殺未遂を演出した——と。
シルクの手袋を嵌めた指で、モミジは卓上をトントンと叩く。その言葉に、円卓に列席する者たちは今度こそ凍りついた。ただ——アヴリルとルルだけを除いて。
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「久しぶりだなジュリア。馬上槍試合(ジョスト)の日以来だから、半年ぶりか? いや、もっとかな……? まぁいずれにしろ、元気そうで何よりだよ」
シエナ・フィナンシェは、応接間のテーブルにティーカップを置きながら言った。彼女の対面に座すのは、ジュリア・エインフェリア、そしてエリザベート・アインフェリアの二名だけだ。
「……いまさら何をしにきたのです。お互い、再会を喜び合う間柄でもないでしょう」
ジュリアは自らの実姉をじっと睨み据えている。氷のように冷えた憎悪が、その瞳には宿っていた。だが、シエナは一切動じない。
「待て待て、あたしはここの卒業生だ。卒業生が母校を訪れるなんて、珍しいことでも何でもない。ついでに妹の顔を見にきたって、バチが当たるはずもなかろうに」
ここはロンドンから西へ遠く離れた王立ファルテシア学園の校舎内——来客をもてなすために設えられた応接間は、瀟洒(しょうしゃ)な調度品で埋め尽くされており、この学園の、ひいては王国そのものの栄華を顕示するかのような趣に溢れている。そんな部屋にあって、シエナはかつての妹と、かつての主君と対面している。三者が揃って対面するのは、実に五年ぶりのことになる。
「エリザベート様も変わらずお元気なご様子……いまさらどうこう申し開きできたものではございませんが、かつてのご無礼、お許し頂ければ幸甚です」
ソファから腰を浮かせたシエナは絨毯の上へ跪(ひざまず)き、最敬礼の姿勢を取った。五年前、彼女は自らの主君であるアインフェリア家を出奔(しゅっぽん)し、シエナ・エインフェリアの名を捨てて、シエナ・フィナンシェという新たな名を得て放浪の旅に出たのであった——妹であるジュリアに『縛られるな、自由になれ(Non essere vincolato, essere libero)』と書かれた置き手紙だけを残して。
「顔を上げてください——シエナ。あなたはお母様を心から慕っていたがゆえに、エインフェリアの名を捨てた。愛する者を想ったがゆえの決断、誰に恥じることがありましょうか」
あなたの選択、決して間違ったものだとは思いません——エリザベートはそう言ってシエナの手を取り、手の甲にそっと頬を寄せる。彼女の目にはうっすらと涙さえ溜まっていた。
「勿体(もったい)なきお言葉です。私めなど、もう臣下ですらございませんのに……」
感極まるというふうに、シエナはエリザベートの手を握り返した。かつてのシエナはエリザベートの母専属のメイドであった。幾度となく病に倒れたエリザベートの母親を彼女は甲斐甲斐しく看病し、そして自らの主君が早世すると、あっけなくアインフェリアの家から失踪したのだ。
ジュリアは、エリザベートの母親の葬儀が執り行われた日のことを思い出す。あのとき、当主であるエリザベートの父親は貿易の仕事で長らくイタリアを離れており、葬儀には出席すらしていなかった。参列者の少なさは、男の世継ぎを産めなかった女の死に対する視線の冷ややかさを物語っているように当時のジュリアには思えたものだ。実に侘しい葬儀だった。
そしてあの日、シエナは棺に取りつき声を上げて号泣したのだ。人目も憚らず泣き叫ぶ自らの姉と、彼女の肩を優しげに抱くエリザベートを、あのときのジュリアはただ黙って見ていることしかできなかった——。
『あんまりだ、こんな人生、あんまりじゃないか——!』
エインフェリアのメイドたちが止めるのも構わず、張り裂けそうな勢いで叫ぶシエナの声音が、ジュリアの記憶で鮮明なまでに蘇る。
『見てください、ご母堂様。庭園の薔薇が綺麗ですよ。今日はよく晴れましたね。朝食の用意を致しますから、あとでお散歩へ行きましょう——』
病床に伏せたエリザベートの母親をかいがいしく世話するシエナの姿もまた同時に、ジュリアの記憶の中で蘇る。
「シエナ、先の大ドイツの者との戦いでは重傷を負ったと聞きました。本当に、傷の具合は大丈夫なのですか?」
「見ての通り頑丈な性質(たち)でして。それに戦(いくさ)での生傷には慣れております。ご心配には及びません」
「で、あればよいのですが……」
エリザベートはなおも心配そうな声音で言う。
「ですからレディントン先生たっての頼み、引き受けるにあたって何の支障もございません。朝飯前とはこのことです」
「くれぐれも無理をしてはなりませんよ」
「仰せのままに」
待て、待て——『レディントン先生たっての頼み』とは何のことだ? ジュリアは急に会話へついてゆけなくなり、混乱する。そんな様子に気づいたのか、エリザベートはジュリアに向けて微笑んだ。
「今日から七日間、ジュリアと私はシエナに訓練をつけてもらいます。私たちは〈仮ライセンス保持者〉。実戦の場に出る身なのですから、いまよりもっと強くならなければなりません」
「お嬢! 待ってください、聞いてません! そんなこと!」
勢いよく立ち上がったジュリアは、自らの主君を問い詰める。あの無表情を絵に描いたようなジュリアが声を上げて取り乱すなど、めったにない光景ではあった。
そんな従者の反応を予期していたのか、エリザベートはこんなことを言ったのだった。
「事前に聞いていたら、あなた絶対反対したでしょう?」
と。
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ナナ・ミシェーレは、流れる雲を寮部屋の窓からぼんやりとした表情で眺めている。ロンドンから学園へ戻って来てからというもの、ずっとこのような調子だった。ニコルがおやつのシュークリームを持ってきてなお、上の空といった顔で窓の外を眺めている。いつもなら大好物のシュークリームの登場に、飛び跳ねんばかりの勢いで喜ぶはずであるにも関わらず——だ。
さすがにこれは異常事態だと皆が皆思いつつも、その落ち込みぶりにどんな言葉をかけてよいのやら皆目検討がつかないという次第だった。同室のニコルもリサも、いまだ慰めの言葉さえ掛けられずにいる。
そして当のナナはといえば、こんなことを考えていたのだった。
また——何もできなかった、と。
少しは「やれるようになった」という自負はあったのだ。〈仮ライセンス試験〉において、クリス・ワインハートら〈闇メイド〉の軍団相手にまるで歯が立たなかったナナたちは、より一層厳しい訓練を自分たちに課していた。学園では上級生の〈仮ライセンス〉保持者に混じり、剣技や格闘術の講習会にも参加していた。〈フォルセティ〉のもとで任務を遂行するにあたり、せめて足を引っ張らない程度の戦力を有していたい——そういった思いからの行動だった。
「——ちゃん」
だがそれでも〈シックス〉の実力には遠く及ばず、なす術もなく完敗したというのが現実だった。もっと強くならなければ……しかし、あの実力差は何だ? 実戦とはかくも厳しいものなのか? ルル・ラ・シャルロットのような強く美しいメイドになりたいというナナ自身の憧れは、現実の厳しさを前にもはや打ち砕かれそうな気配だった。
「——ナナちゃん」
ナナは自らの手のひらをじっと見つめる。度重なる鍛錬によって出来た剣タコは弛(たゆ)まぬ努力の証に他ならない。だが、そんな自己満足は実戦において何の足しにもならないのだ。では、これからの自分はどうすれば良い? どうすれば実戦の場で通用するメイドになれるのか? 答えは出ない。現に〈シックス〉との実力差はちょっとやそっとの努力で埋められるものとは思えなかった。
「——ナナちゃんってば」
名前を呼ばれていることにようやく気づき、ナナは後ろを振り返る。そこにはティーセットと作りたてのシュークリームを携えたニコルがいた。今日は休日。午後のティータイムを寮の部屋で楽しもうという気遣いだったが、しかしナナの表情は曇ったままだ。
「今日のシュークリームは自信作なんだ」
ニコルはそう言いながら手早くティーセットを準備する。と、そのときだった。
「うむ、確かに美味しそうなシュークリームだ」
室内に聞き覚えのない声が響いた。驚いたナナとニコルは声のした方へ視線を向ける——すると、天井の梁(はり)へ逆さまにぶら下がっている人物が視界に入った。
「ニコル・ベイカー……料理と菓子作りはプロ並みの腕前。確かに情報通りだね」
低く通る女のひとの声音だった。美声といって差し支えない。そんな声の主は、ナナとニコルの前で見事な三点着地を決めてみせる。着地の際、音は一切響かなかった。まるで猫のような身のこなしである。
「どれ、ひとつ貰おう——うん、美味い。なるほど、ノーラ・オブライエンが気に入るわけだ」
呆気に取られるナナたちをよそに、不法侵入の女はバスケットのシュークリームを口へ放り込んでいる。よく見れば、執事服を着た「男装の麗人」を絵に描いたような女だった。そしてその胸元には、何と〈エスパティエ〉の徽章が輝いている。彼女は〈協会〉公認のメイドであるばかりか、ルル・ラ・シャルロットら〈フォルセティ〉と同格の高位役職にあるメイドなのだ。〈エスパティエ〉の絶対数は驚くほど少ない。王国内を見渡しても、〈フォルセティ〉の四人を含めわずか十数名に満たぬほど希少な存在である。
「ナナ・ミシェーレ——君には呆けている時間も落ち込んでいる時間もありはしない。一緒に来て貰うぞ。モミジが君を呼んでいる」
そう言うやいなや、〈エスパティエ〉の女はナナの身体を小脇に抱え、何と窓を開けて外へ飛び出してしまったのであった。ナナの絶叫が尾を引きながら室内へ轟く。ここは寮の四階だ。落ちたらただでは済まない高さである。
「ナ、ナナちゃん!?」
驚いたニコルが開け放たれた窓から身を乗り出すと——中庭に野次馬めかして集まった寮生たちの姿が目に入った。あの〈エスパティエ〉の麗人も、小脇に抱えられたナナの姿も、もうどこにも見当たらなかった。
「ナナちゃんは!?」
集まった寮生たちにニコルが言うと、「消えた」だの「飛んでいった」だの要領を得ない答えが返ってくる。一体どうなっているのか——? さっきの女は誰なのか——? 混乱する思考をまとめきれずにいると、寮部屋の扉が開かれる気配があった。
「招集命令! 〈フォルセティ〉のひとたちが来てる。いますぐ食堂まで来いって——ニコ?」
「ど、ど、どうしよう……」という風情で冷や汗をかき続けるニコルへ、部屋に入ってきたリサが疑問の声を投げかける。ただならぬ出来事が起きたことが一目瞭然であったためだ。怪訝そうな表情を浮かべるリサに半泣きの顔ですがりつき、ニコルは言った。
「どうしよう……ナナちゃんが〈エスパティエ〉のひとに攫(さら)われちゃった!」
~~~
「剣を使うのは久しぶりだ。うん——ま、こんなもんだろ」
刃を潰した訓練用の剣を手に取り、シエナが言う。ウォーミングアップとばかりに剣先を素早く振るう所作は、まるで熟練の騎士のような趣である。そしてシエナは剣の尖端をジュリアに突き出して言った。
「手加減は無用だ。全力で来い」
〈お嬢〉への遠慮も無用だぞ——そう言って薄笑いを浮かべる自らの実姉に、同じく訓練用の剣を手にしたジュリアは憎しみも顕わに言い返す。
「——言われなくても」
普段は武芸の授業で用いられる大広間に、触れれば切れるような緊張感が迸る。審判役のエリザベートを除けば誰もいない空間にあって、シエナとジュリアの息づかいだけが響いているような状態だった。
「『始め』の合図なんかいらないさ。これは訓練でも試合でもない——実戦だ」
シエナが言う。先に動いたのはジュリアだった。一呼吸で間合いを詰め、剣先を突き込むと見せかけ——目にも止まらぬ早さで身を翻して奇襲を見舞う。斜め下から跳ね上げるような動作で、神速の斬り込みがシエナの頸動脈めがけて襲い掛かった。
「動きが大振りだなジュリア! そんなのじゃ簡単に見切られるぞ!」
ジュリアの奇襲攻撃をシエナは剣の一振りで弾き返す。が——それはあくまで陽動の一撃。防御姿勢を取ったことで脇腹が空いた隙を狙い、ジュリアは地を蹴り、片足を軸に素早く身体を一回転させた。中国拳法式の後ろ廻し蹴り。その一撃がシエナめがけて放たれる。
「工夫は見事だ。発想も良い。だが——遅い」
蹴り込まれた足をキャッチし、シエナは足首を即座に固めに掛かった。そして同時に足払いを見舞う。バランスを失ったジュリアは背中から床へ倒れ込み、苦悶の声を上げていた。蹴りを止めた片手のみの動きで、瞬時に足首を捩(ねじ)られたのだ。
「あ……ぐっ……!」
「ニッポンの古式柔術の技だ。実戦なら骨をポッキリ折られておしまいだな」
いまのシエナはアインフェリア家に仕えていた時分とはまるで違う。もとより天才的な武芸の才能を有してはいたが、いまの実力は当時とは比べものにならない地平にまで達している。古今東西あらゆる格闘技に精通した近接戦最強の〈エスパティエ〉——エリザベートはその実力をまざまざと見せつけられ、背筋が震えるような心地を味わった。ジュリアは格闘戦教練において上級生さえ圧倒するスキルの持ち主なのだ。そんな彼女から、いとも簡単に一本取ってしまうとは……。
「もう一本だ。言っただろう——本気を出せ。遠慮なんかすることない」
シエナはジュリアの足首を解放する。一方のジュリアは床に取り落とした剣を拾い上げ、間合いを取って構えている。その目には、燃えたぎるような憎悪が宿されていた。
「おいおい、そんな目で見るなジュリア」
苦笑交じりにシエナは言った。
「ひとつアドバイスだ。お前は無意識のうちに自分自身へある種の『縛り』をかけている。まぁ、自分では本気を出しているつもりかもしれないがな……」
「……」
「いいかジュリア。あたしはそんなお前の『縛り』を解いてやりたい。そのためにも、お前はあたしを殺すつもりで掛かってこい——『縛り』を解くには、それしかないんだ」
再び臨戦態勢を取ったジュリアは、気勢とともにシエナめがけて吶喊(とっかん)した。剣と剣がぶつかり合い、両者は鍔迫り(つばぜり)合いの格好で睨み合う。
「どうした? 長年憎んだ姉に意趣返しをするチャンスだぞ——もっと本気を出せ。お前の実力はこんなもんじゃないはずだ」
「いいでしょう。本気を出せと挑発したこと、後悔しても知りませんよ——」
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「へいへいへーい、〈シックス〉サマのお帰りだぜー?」
廃屋の扉を勢いよく開き、〈シックス〉はズカズカと土足で室内へ上がり込んだ。彼女のあとに続くのは長身の〈ファイブ〉で、布製の背嚢にはどこかから調達してきた食糧をたんまりと背負い込んでいる。
「おかえりー!」
「待ってたよ!」
「ごはん出来てるよ!」
「いっしょに食べよ!」
部屋の中から出迎えの声が続々と上がった。子どもの姿もあれば、少しだけ年長の者の姿も混じっている。年齢層も人種も様々だ。しかしいずれの者も——〈ファイブ〉と〈シックス〉と同じく、軍服じみたデザインをした漆黒のメイド服を身に纏っている。本来は腰に付けられているはずの〈コミュニア〉徽章などは当然ない。ここにいる皆が皆、非合法活動に従事する〈闇メイド〉であったからだ。
「悪いな〈ファイブ〉。買い出しまで頼んじまって」
「ううん、全然……。〈スリー〉の作るシチューが食べたかったから、材料いっぱい買ってきたよ……」
作戦より帰還した〈ファイブ〉と〈シックス〉を出迎えた者のひとり——〈スリー〉と呼ばれた赤髪とそばかすの女が言った。彼女は〈ファイブ〉の長身をきつく抱き締め、「無事で何よりだ」と慈愛に満ちた声音を出す。〈ファイブ〉が抱擁を返すと、〈スリー〉の両耳に付けられたいくつものフープ式ピアスがきらきらと揺れた。
「おいおいおいおいおーい。あたしは? ねぇあたしは? 〈シックス〉サマに出迎えのハグは無いってワケ?」
「誰がオメーなんかにハグするか馬鹿ヤロー。メシ食う前に水浴びしてこい。野良犬みてぇな匂いしてんぞ」
「あ? んだとコラ。喧嘩売ってんのかテメェこのヤロー!」
「いやマジだって。嘘だと思ったらテメェで自分の匂い嗅いでみな」
「え? 嘘、マジ?」
〈スリー〉に言われた通り、〈シックス〉は服のそこかしこをクンクンと嗅ぐ。それこそ犬のような仕草であった。
「うわマジだ。二日間歩き通しだったかんなー、凹むわー……」
「追っ手は?」
「撒いたさ。王国陸軍の精鋭相手だから多少手間取りはしたが、いまは〈ジョーカー〉の姉御たちが始末してくれてる頃合いだろうよ」
〈シックス〉は汚れたブーツの紐を解きつつ不敵に笑う。
「〈エース〉は大丈夫なのでしょうか……?」
〈シックス〉のそばに駆け寄った幼げな子どもが言った。ミドルカットの金髪をした、青い目の子どもであった。彼女の言葉には、多少のドイツ訛りが混じっていた。
「〈エース〉は〈フォルセティ〉のやつらに捕まっちまった。でも大丈夫だ〈ツー〉。心配はいらない。全部〈ジョーカー〉が立ててくれた計画通りだからな」
〈シックス〉が言うと、〈ファイブ〉は〈ツー〉と呼ばれた子どもを抱き寄せ、その髪を優しく撫でてやった。しかし〈ツー〉はいまにも泣き出しそうな表情を浮かべている。囚われた〈エース〉の身を心から案じているのであろう。そんな仲間たちの様子を横目で見つつ、〈シックス〉が言った。
「そういうわけで、いまのところ全部が全部手はず通りだ。あとは〈ジョーカー〉の姉御たちが燻り切った導火線に火をつけるのを待つだけってわけだ」
「こんなボロ屋での野営もあと少しの辛抱だな。早く柔らかいベッドで眠りたいもんだぜ。毎晩硬い床で眠るのは、身体にこたえる」
赤髪の〈スリー〉が言う。すると、部屋の奥から声が聞こえた。
「ホントよぉ。こんな吹き曝(さら)しの廃屋なんかにずっといたら、絶対美容によくないわぁ」
柔らかく艶のある声音であった。声の主は緩く巻いたブルネットの髪を指先でくるくるともてあそび、唇の先を尖らせて抗議の意思を表明している。豊満な肢体をした美女であった。黒いメイド服の胸元は、いまにもはち切れんばかりに膨らんでいる。
「ここでの食事、毎日お芋のスープやシチューと硬いパンばっかりじゃない。私、新鮮なお肉が食べたいわぁ」
「文句いうな〈ナイン〉。ただでさえ少ない食糧をやりくりしているんだ。堪(こら)えてくれ」
〈スリー〉の言葉に、〈ナイン〉と呼ばれたブルネットの美女は妖艶な笑みを浮かべて応える。
「食糧が足りないなら、近くの村から略奪でもすればいいじゃない? 欲しいものがあれば殺してでも奪い取る——傭兵団のときはそれが基本だったわよぉ?」
〈スリー〉は無関係な民の虐殺をとても嫌う。そのことを知った上で、あえて挑発するかのような物言いをした〈ナイン〉に対し、〈スリー〉の表情がにわかに怒りの表情へと変わった。「おい、やめとけ」と〈シックス〉が窘めるが、頭に血が上った〈スリー〉の耳には入っていない。「ったく、これだから元不良は……」と〈シックス〉は思うが、しかし既に手遅れだった。
「おい、〈ナンバーズ〉は傭兵団でも盗賊でもねぇ! 規律を忘れるなって、いつも〈ジョーカー〉が言っているだろう。忘れたのか〈ナイン〉」
「規律、ねぇ……」
「ああそうだ。規律だよ。あたしたち〈ナンバーズ〉は決して『ならず者』なんかじゃねぇ。〈ジョーカー〉の手で選ばれた誇りある戦士だ。だから略奪なんて……もっての他だ」
「ねぇ〈スリー〉……あんた雑魚なんだからさぁ、そのお喋りな口を閉じなさいな」
舌打ちとともに〈ナイン〉が言うと、場に著しい緊張が走った。不機嫌なときの〈ナイン〉は下手に刺激をすると「暴発」する。あの〈ジャック〉ほどではないが、扱い方を間違えると何をしでかすか分からない手合いであった。
「ふふっ、ねぇ、何を震えているのぉ〈スリー〉? 可愛い顔が台無しよぉ?」
立ち上がった〈ナイン〉は〈スリー〉のもとへ歩み寄り、その赤い髪を指先で梳く。腰に提げたバスタードソードを〈ナイン〉が抜くか抜かないか、皆が固唾を呑んで見守っているような状況だった。
突然の事態に怯える〈ツー〉の矮躯を、〈ファイブ〉はその長身で庇うように抱き締めている。一方、隠し持ったナイフに手を掛けたまま、〈スリー〉は至近距離にある〈ナイン〉の目をきつく睨み据える。その膝は〈ナイン〉が言った通り、心なしか震えているように周りの者たちからは映っていた。
「ねぇ〈スリー〉。〈ジョーカー〉の言うことなんか、私にとってはこれっぽっちも関係ないわぁ。私、思うまま暴れられるっていうから〈ナンバーズ〉に入ったのよぉ? みんなだってそうでしょう?」
場にいる全員を見回しながら〈ナイン〉は言った。あの好戦的な〈シックス〉でさえ、〈ナイン〉に見すくめられるや、即座にその視線を外したほどだ。
「……調子に乗るなよ〈ナイン〉。この場に〈ジョーカー〉の姉御たちがいないからって、好き勝手出来ると思ったら大間違いだ!」
「口を開けば〈ジョーカー〉の姉御、〈ジョーカー〉の姉御……もういいわぁあんた。ここで死んどけよ」
〈ナイン〉は〈スリー〉の額に自らの額を打ち付けると、腰のバスタードソードに手を掛ける。と、そのときだった。
「やめろ〈ナイン〉——そこまでだ。子どもたちが怖がっている」
部屋の奥から〈ナイン〉を制止する声が飛んできた。
「お前はそうやってすぐに揉め事を起こす。〈キング〉から受けた制裁を忘れたか。前任の〈エイト〉を斬ったとき、背中につけられた三つの傷だ。次にやれば心臓を突くと釘を刺されていたじゃあないか」
声の主は〈ナイン〉のバスタードソードを封じるかのように、その柄頭へ手を掛ける。
「あらぁ、そうだったかしらぁ? 私、嫌なことはすぐ忘れるようにしているのぉ」
「頭では忘れていても身体は覚えているだろう。夜ごと背中の傷が痛むと言っていたじゃないか」
〈ナイン〉の背後に立つ女は、彼女の背中の傷をメイド服の上からそっとなぞった。「あは、くすぐったいわよぉ」と言う〈ナイン〉の頬に、女はそっと口づけをする。それが彼女を鎮める唯一の方法だと知り尽くしているかのような、実に手慣れた所作であった。
「〈スリー〉の言う通り、あと少しの辛抱だ。〈賭場(テーブル)〉さえ開かれれば、あとは好きに暴れられる——〈首斬りトレイシー〉と呼ばれたお前の剣の腕を披露する、絶好の舞台がやってくるんだ。あのルル・ラ・シャルロットだって、シエナ・フィナンシェだって喰い放題だぞ?」
「もぉ、〈テン〉ったら口が上手いんだからぁ。おだてたって何も出やしないわよぉ?」
唐突な睦み合いをはじめる〈ナイン〉と〈テン〉を目の前にして、〈スリー〉は全身から冷や汗を垂らしながら立ちすくんでいる次第だった。挑発され頭に血が上っていたとはいえ、自分はあの〈ナイン〉を怒らせたのだ。あの〈首斬りトレイシー〉と呼ばれた、ファルテシア王国最悪の傭兵団頭領を——。危うく殺されるところだったと、冷静になった〈スリー〉は激しく脈打つ心臓の鼓動を感じていた。
それにしても——統率の取れた〈ナンバーズ〉にあって、元犯罪者の〈ナイン〉は明らかに異質だ。そんな〈ナイン〉を巧みに制御する〈テン〉の存在があって、彼女ははじめて〈ナンバーズ〉の一員として機能する。それさえも見越した人員配置なのだとしたら、部隊を統率する〈ジョーカー〉の采配は見事としか言い様がない。
「さぁ〈スリー〉。〈ナイン〉と仲直りするんだ。きちんと膝をついて「ごめんなさい」と言わなきゃならない。子どもじゃあないんだ。わかるだろう?」
〈テン〉に言われるがまま、〈スリー〉は〈ナイン〉の眼前で膝をついた。間違ったことを言ったのは〈ナイン〉の方だから、そもそも謝罪する道理などありはしない。本音をいえば屈辱的な気分だったが、しかし〈テン〉の命令に逆らうことは許されない。〈スリー〉は渋々命令に従うしかないのだった。
「……ごめんなさい」
「素直でよろしい——お姉さん、素直な子は大好きよぉ」
そう言うと、〈ナイン〉はブーツの爪先で〈スリー〉の顔面を思い切り蹴り上げた。鼻血が噴き出し、辺り一面に飛散する。鼻を押さえて呻く〈スリー〉に〈シックス〉が駆け寄り、流れ出す鮮血を手近な布で拭いてやった。「アッハッハ、良い気味ぃ」という〈ナイン〉の哄笑が、室内に大きく響いていた。
「大丈夫か?」
「平気だ。こんくらい、シメられたうちにも入んねぇ。スラムにいた頃はもっとヒドい目に遭ったもんさ……」
〈シックス〉の肩を借りた〈スリー〉が言う。
「命拾いしたな」
「ああ。どうかしてたぜ……〈ナイン〉の喧嘩を買うなんてよ」
「安心しろ〈スリー〉。あのクソ女はいつか〈シックス〉サマが爆殺してやる」
「お前ごときが〈ナイン〉と〈テン〉を出し抜けるってか? ハハ、笑わせんなよ」
「んだとコラ」
「ったく、逆に安心するぜ……手練れのお前でも勝てない相手が〈ナンバーズ〉にはごまんといる。あんだけイキってる〈ナイン〉と〈テン〉も、〈ジャック〉以上のメンバーには手も足も出やしねぇ。〈ジョーカー〉ともなれば尚更だよ。あたしたち、マジで〈フォルセティ〉に勝っちまうかもな……」
「いずれにしろ、答えは〈賭場(テーブル)〉が開かれりゃわかることさ。あと、お前は後方支援の要員なんだから、前線には絶対出るなよ。死なれたら喧嘩の相手がいなくなる」
「うるせぇ馬鹿」
〈スリー〉が笑うと、〈シックス〉も笑った。